岡部倫子氏が説く「アフェクティブ・デリバリーの意義」

現代の多くの企業では、人員削減とコスト削減が進められ、ITとAIの導入は一般的となっています。企業の成長にとって、従業員一人ひとりの質の高い業務は必要不可欠です。他方で、サービス業と呼ばれる職種では、従業員が顧客に対応する際に、質の高いサービスの提供が企業の好感度を高めると考え、従業員の教育に力を注いでいます。サービスの質を向上させるためにはどうしたらよいのでしょうか。

岡部倫子氏は経営学の研究者で、フランスで航空MBAを、日本で博士を取得した経験を活かし、サービス企業と従業員の感情労働の研究を行っています。氏は、サービスを提供する企業は、従業員に対して、会社に望ましい感情を表現することを求めるため、感情規制が存在します。感情規制とは、雇用契約書には記載がないけれども、社員教育などの場で示されます。例えば、販売促進を目標とする商店の販売員には微笑みと朗らかさが求められるでしょう。他方で、葬儀場のスタッフには、遺族の思いに寄り添う落ち着いた姿勢が求められます。このように、感情表現には文化毎の違いがあります。文化に特有の感情表現に関するルールは、ディスプレイ・ルール (display rule)と称され、心理学者のポール・エクマンが提唱しました。近年は、組織や対人サービス従業員の職務においてもディスプレイ・ルールがあると考えられ、従業員の感情が大きな関心を集めています。氏は、対人サービス従業員に求められる感情表現に関しても企業文化の違いがあり、特有のディスプレイ・ルールがあるため、従業員はこのルールに従順するために感情労働を行うと述べています。感情労働とは、肉体労働や頭脳労働とは異なり、サービスを提供する従業員が顧客に対応する際に、会社が規制するガイドラインに従って、個人の感情をコントロールして適切な対応をする労働です。

岡部氏は、従業員が顧客にサービスを提供する際に、感情労働の一環である「アフェクティブ・デリバリー」の効用を上げています。アフェクティブ・デリバリーとは、ポジティブな感情を意識的に表現することで、顧客の満足度を向上させる対応です。氏は、アフェクティブ・デリバリーは顧客満足度を高めるだけではなく、従業員が会社に対して心理的契約違反を感じた際に生じる会社に対する信頼感の低下を最低限にとどめる効果、そして職務満足の低下を緩和する効果があることを実証しています。「心理的契約」とは、一般的な雇用契約とは異なり、従業員と組織間には相互義務があるとする従業員の信念です。言い換えると心理的契約とは暗黙の了解であり、書類などに明文化することが難しいため、しばしば従業員と組織は異なった見解を持つことがあります。従業員が心理的契約違反を感じると、会社から裏切られたような気持ちになり、職務満足度は低下し、パフォーマンスも低下します。他方で、アフェクティブ・デリバリーを多く用いる従業員は、会社への不信感を軽減し、職務満足の低下も緩和されることが、氏の研究により明らかになりました。

企業文化において適切な感情表現は、職業人が快適に職業生活を営むうえで大切な要素です。また社会や組織の一員としても適切な感情表現が重視されます。岡部氏の提言は、サービス企業と従業員には非常に有意義であり、今後の研究成果が一層期待されます。

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